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Sycoforge の『Return to Nangrim』が、Unity と Plastic SCM を使ったゲーム開発を民主化する

2021年10月19日 カテゴリ: ゲーム | 5 分 で読めます
Return to Nangrim
Return to Nangrim
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Sycoforge 社の CEO である Michela Rimensberger 氏が、『Return to Nangrim』のユニークな開発プロセス、彼女が率いるインディースタジオが Unity とのコラボレーションをどのように改善したか、そしてプレイヤーが「Arafinn 体験」を掘り下げてくれることについて彼女が最も嬉しく思っていることを語ります。

Sycoforge is a Zurich-based indie game studio founded by Michela Rimensberger (CEO) and Ismael Wittwer (CTO) in 2017. Since 2009, they’ve been developing “the Arafinn experience,” a transmedia fantasy world spanning books, games, and much more – complete with four unique languages, distinct cultures, and even its own system of measurement.

Visit Steam to download Return to Nangrim’s playable teaser, and read on for our full interview with Michela Rimensberger.

A dwarf in armor is holding a shield and an axe atop a mountain under a cloudy sky, and a text saying "Sycoforge:Read the Case Study" is next to him
Read the case study https://create.unity.com/unity-devops-case-study-return-to-nangrim

Sycoforge 社は、2017 年に Michela Rimensberger 氏(CEO)と Ismael Wittwer 氏(CTO)が設立したチューリッヒのインディーゲームスタジオです。2009 年からずっと、彼女たちは「Arafinn 体験」を開発してきました。これは、本やゲームなどのメディアをまたいで展開するファンタジー世界で、4 つの独自の言語、異なる文化、さらには独自の測定体系まで備えた世界です。

Steam にアクセスして『Return to Nangrim』のプレイアブルティザーをダウンロードしてみましょう。そして、この記事に収録した Michela Rimensberger 氏へのインタビュー内容をお読みください。

まず、Sycoforge 社の成り立ちとスタジオとしての歩みについて教えてください。

(回答者:Michela Rimensberger 氏)私たちは、チューリッヒ応用科学大学で IT エンジニアリングを学んでいるときに事業をスタートさせました。夜になると、私たちは一緒になって『Anno 2070』や『Battle for Middle-earth』などのゲームをプレイし、私たちのゲームはどのようなものになるかと空想していました。私たちはすぐに、自分たちのアイデアが 1 つのゲームには収まらないものであることに気づき、代わりに世界そのものの定義を始めました。

それ以来、ゲームをすることは少なくなり、「定義付け」をすることが多くなりました。地図、種族、部族、家系など、すべてがつながっていて、自己完結していること。これを一番の目標としました。そして、Arafinn の世界が誕生しました。Ismael と私は、このアイデアを学士論文でも使いました。私たちは、Unity をベースにして、混合現実感のあるファンタジーゲームを簡単に開発するためのエンジンを開発しました。そして 2017 年、とうとう一緒に Sycoforge 社を設立したんです。

Return to Nangrim』の最初のプレイアブルデモは、今年の Gamescom で初披露され、現在 Steam で配信されています。初めて自分のゲームが遊べる形で世に出た気分はいかがですか。また、プレイヤーの反応はどのようなものでしょうか。

まず、リリースされたバージョンはすべての機能が実装されているわけではない(戦闘がない)ので、「プレイアブルティーザー」と呼んでいます。そうは言っても、大変でした。Gamescom の開催前、開催中、そして終了後、私たちみんなの感情はまるでジェットコースターのようでした。

Sycoforge 社のスタッフ全員が、プレイヤーの皆さんに期待通りの体験を提供するために一生懸命働いていたので、期待は非常に高く、正直なところ、何かを公にする - 貴方が上手くおっしゃったように「野に解き放つ(out in the wild)」 ー ことを考えたとき、私は気絶しそうになりました。

自分が作ったものがプレイヤーに受け入れられるかどうかを見積もるのはとても難しいことです。ゲーム性を気に入ってもらえるかどうか。その体験は、自分が伝えたいストーリーをきちんと伝えているか。どんなバグが発生するのか。特にインディーの場合、いろいろな役割を担うことになるので、いろいろな面で怖い思いをすることになります。しかし、幸いなことに、プレイアブルティーザーは非常に好評でした。 

Discord のメンバー数も 5 倍になりました。今や私たちの Araffin ファミリーは大きく成長しました。ストリーマーが私たちのゲームをプレイして気に入ってくれたことは素晴らしいことでした。自分たちがやってきたことが報われたと感じると同時に、改善のためのケーススタディにもなりました。でも、期待が非常に大きくなっているだけに、ちょっと怖い気もします。

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『Return to Nangrim』のトレーラー

Return to Nangrim』は、貴方が『Arafinn 体験』と呼んでいるもののほんの一部ということです。読者の皆さんに向けて、そのことについてもう少し詳しく教えていただけますか。

私たちは 10 年以上にわたり、Araffin 世界の構築に取り組んできました。最初はゲームのアイデアから始まりましたが、今でははるかに大きなものに育ちました。たとえば、この世界には 4 つの言語があるのですが、これらの言語は 2 人の言語学者によって文法と規則がすべて定義されているので、実際に話すことができます。

これだけ多くのストーリーがあると、1 つのゲームですべてを語ることはできませんし、寝かせてあるすべてのストーリーを語るほど早くゲームを提供することもできません(主にストーリーのストックが常に増え続けているせいですが)。そこで私たちは、コミックやインタラクティブなナレーション付き絵本、プレイヤーが探索できる俯瞰の世界地図、現在制作中の本など、他のメディアを使ってそれらを伝える方法を考えました。

これは、ファンの皆さんを開発プロセスに組み込むという意味もあります。私たちが選んだ開発手法は、「プレイヤーズギルド」と呼ばれるもので、選ばれたプレイヤーが新機能を早い段階でテストし、その結果をフィードバックしてその先の開発の方針を決めていくというものです。

Sycoforge 社は、自分たちを単なるゲーム開発者とは考えておらず、複数のメディアをまたいだ戦略をとっています。(この記事の読者の中に Netflix の方はいらっしゃいませんか。貴社にぴったりのメディア横断型ファンタジーシリーズの企画をご用意してお待ちしております。)

Book from Nangrim

Return to Nangrim』に関わっている人数はどのくらいでしょうか。

私たちは、パートタイムの優秀なプログラマーやフリーランサーなど、私たちのビジョンを共有する多くの人たちと一緒に仕事をしています。メンバー全員がフルタイムで働いているわけではないので、コアメンバーの人数は 3.5 人となります。それに加えて、ここスイスでは約 10 人、世界中では 21 人以上のフリーランサーがそれぞれの時間で仕事をしています。

プレイヤーズギルドをはじめ、Discord も超便利です。こうしたコミュニティにいる人たちからは常にバグの報告があり、提案をしてくれ、独自のコンテンツの制作までしてくれます。中には公開のバグ掲示板を管理している人もいます。

Sycoforge 社でのコラボレーションはどのようなものですか?。

私たちはさまざまな方法でコラボレーションを行っています。現場では、アイデアや創造性を高めるために、全員が共有のオフィススペースで仕事をしています。機能を定義する時などは、議論に参加している人が自分の意見に固執して、もっと良い方法や他のアイデアとの組み合わせがあることを忘れてしまうことがよくあります。私は、実りある議論の中で出されるさまざまな意見こそが、真のチームワークを可能にする、最も価値のあるものだと考えています。私はこれを、すべての歯車や仕組みがスムーズに動いている機械のように考えたいのです。

離れた場所から仕事をすることは、より困難です。ここで最も役に立ったのは、アートスタイルをまとめた資料、デザインドキュメント、ビジョンのサマリーなど、明確に定義されたガイドラインでした。こうした資料を整えることで、全員が同じ考えを持つことができます。リモートで仕事をしていると、どうしても時間がかかってしまいます。メールや Slack、あるいは zoom を使ったコミュニケーションは、曖昧で誤解を招くことも多いのですが、それだけの価値があることは間違いありません。4 年間の開発期間を経て、Sycoforge 社は世界中に広がる大きな家族だと感じられるようになってきました。

技術的な観点から見ると、Plastic SCM は、コラボレーションの救世主となりました。様々なバージョン管理ツールを試してみましたが、ゲーム開発会社のニーズに合うものはないとすぐに気付きました。プログラマーにとっては使えるものもいくつかあったのですが、アーティストはそれらのツールを使うのに四苦八苦していました。それだけに、Plastic SCM を見つけた時、私たちは本当の意味でのゲームチェンジャーを見つけたと思いました。ノンプログラマーにもプログラマーにも使いやすいです。

 

Developers working on a game

Plastic SCM に切り替える前に使用していたバージョン管理システム(VCS)は何でしたか。なぜ切り替えようと思ったのですか。

最初は Bitbucket を使っていましたが、Unity に近いという理由で Unity Teams に切り替えました。チームやプロジェクトが大きくなるにつれ、最もパフォーマンスの高いソリューションである Plastic SCM に切り替えました。  

バージョン管理システムの導入はどのようなものでしたか。

Git はちょっと信頼性に欠けるように見えました。私たちにはゲーム開発に向いていないものに見えました。そして Git LFS はさらなる問題を引き起こしました。Plastic SCM では、大容量ファイルのための無駄のないソリューションを提供しています。そして、その統合は実にスムーズでした。プロジェクトの途中で統合を行っていたこともあり、こんなに簡単にできるのかと驚きました。

プレイヤーズギルドは、貴社のゲームを洗練させるためのユニークなアプローチだと思います。なぜ開発プロセスを民主化しようと考えたのですか。

私たちのゲームはストーリー重視なので、デモやアーリーアクセスを行うことは非常に困難です。しかし、プレイヤーの皆さんからのフィードバックは欠かせませんので、ストーリーのネタバレをせずに、必要なフィードバックを得られる方法を模索しました。適切な土壌を作った上でさまざまな意見が出されるようにすれば、最高の成果を得ることができます。私たちは、できるだけ多くの価値あるフィードバックを得たいと考えました。「価値ある」というのは、あらゆる種類のフィードバックを指します。

私たちが最初に実装した機能に対するプレイヤーズギルドのフィードバック(私たちがどれほど緊張して読んでいたかは想像に難くありません)をはじめて受け取ったときは、本当に打ちのめされました。主人公を高層ビル並みの高さでジャンプさせるテスト用スイッチを、無効にするのを忘れていたんです。このため、このギルドのメンバーは没入感を台無しにされ、「このゲームは『ドワーフのフライトシミュレーター』になるのか?」というフィードバックを受け取ることになりました。このようなフィードバックを真摯に受け止め、またフィードバックをくれた人に実際に連絡を取り、一体感が生まれました。この人は今、Discord で最もアクティブなメンバーの一人で、新しく入ってきた人の紹介や公開バグ掲示板の管理まで担当しています。

それが、私たちのユニークなアプローチの一番の魅力です。私たちが構築しているのは Araffin 世界です。コミュニティを持っているだけではなく、私たち自身がコミュニティなのです。

プレイヤーズギルドに関わっている中で一番驚いたことは何ですか。

私にとっては、人々が実際に Hìlduir(Araffin 世界のドワーフ語)で会話や挨拶をするようになったこと、そして常に新しい言葉を解読したり、手がかりや隠されたイースターエッグを探したりしていることです。世界中の見知らぬ人同士が私たちの Discord の「酒場」に集まり、デジタルの Bordjal(ドワーフのビール)を分け合い、楽しい時間を過ごすことは本当に素晴らしいことだと思います。荒らしの問題は今のところ些細なもので済んでいます。コミュニティの大部分は親切で手助けをしてくれ、ゲームの改善のために時間を割いてくれる人たちで構成されています。 このフィードバックをどのように反復に基づく開発プロセスに活用するのですか。そのためにどのようなツールを使っていますか。

フィードバックに関しては、さまざまなツールを使用しています。まず、各コンポーネントテストに連動したアンケートを実施し、プレイヤーの皆様にフィードバックをお願いし、その対価として Aruin(Discord の通貨)をお渡ししています。 

私たちの Discord でも多くのことが行われています。毎日、多くの質問、提案、フィードバック、バグレポートなどが投稿されています。これらの情報をフィルタリングするために、私たちの「バグスレイヤー」である Luca がすべての情報を収集し、公開の Trello(社内の Jira とリンクしています)にまとめています。そこからが実際の仕事の始まりです。

  1. 機能の修正が必要な場合は、それを定義します。
  2. 私たちは、修正内容をワーキングパッケージにまとめます。
  3. タスクを分配します。

そこで登場するのが、Plastic SCM です。 

私たちのチームは世界中に散らばっているので、ほとんどの人がリモートで仕事をしていても、Plastic SCM は一緒に仕事をするのに役立ちます。私たちは標準化されたワークフローを持っており、朝一番にメールをチェックするか、Plastic SCM にコミットがあるかどうかを確認します。 

あるバージョンで問題が発生した場合、Plastic SCM なら以前の手順を簡単に再現することができます。また、反復とコラボレーションを促進します。これは、アジャイルで迅速なアップデートを提供しようとする場合に重要なことです。

Return to Nangrim』の開発中に直面した最大の課題は何ですか。

制作中に技術スタックがすごい速度で進化していくことです。これは小さなチームではなかなか難しいことなのですが、ありがたいことに Unity がその役目を果たしてくれました。Unity 2017 から、Unity 2021 へ問題なくきれいにアップデートできました。

また、広がっていくプロジェクトの範囲を日々管理するのも難しいことです。技術面では、ここで Plastic SCM が活躍します。私たちにとって、Unity と Plastic SCM は完璧な組み合わせです。

Unity Engine

このゲームの開発に Unity を選んだ理由を教えてください。コラボレーションはいかがでしたか。

Unity には、ゲーム開発者の仕事を楽にするさまざまなツールが用意されています。いくつか例を挙げてみましょう。使いやすいエディターと、あと IT エンジニアとしての立場で言えば、C# をネイティブにサポートしていることです。手元でしっかりとした次世代のプログラミング言語を使えるということは、とても心強いことです。

タイムラインのようなツールのおかげで、当社の VFX アーティストは、以前は After Effects のような別のアプリケーションを使用していた高品質のシネマティックスを簡単に開発することができました。HD レンダーパイプライン(HDRP)とシェーダーグラフを組み合わせることで、高い現実感を実現するシェーダーをスムーズかつ容易に開発できるようになり、Unity のアップデートがあっても問題なくメンテナンスすることができます。

Return to Nangrim』の開発中にいくつかのアセットが生まれ、それらはアセットストアで公開されています(例:Easy DecalEasy Combine など)。ニーズに合わせてエンジンを拡張したり、アセットストアにあるさまざまなアセットを使って素早くプロトタイプを作ることができるのは、本当に良いことだと思います。

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開発から得られた教訓のうち、特にコミュニティで共有したいものはありますか。

プロトタイピングは迅速にやりましょう(Unity のアセットストアを使うのもいいでしょう)。少人数のチームで、すべてをゼロから開発しようとしないでください。コミュニティには何千人ものユーザーがいて、そこには自分が抱えているものと同じ問題に遭遇しているユーザーが必ずいます。また、解決策もフォーラムやアセットストアで共有されています。要するに、車輪の再発明をしようとするなということです。コミュニティの力を利用するのです。  

ゲームの最終版、そして Arafinn 体験全体を通して、プレイヤーがこれを体験してくれたら嬉しいという部分はどこでしょうか。

その答えは、Sycoforge 社の誰に聞くかによって異なると思います。当社の 3D アーティストは、アセットに作り込んだディテールを語るでしょう。プログラマーは、1080 上でゲームがどれだけスムーズに動くかを興奮気味に語ってくれるでしょう。しかし、今貴方が質問しているのは私で、そして私の(役割の)1 つはストーリーを書くことです。そしてそれは私がぜひ語りたいと思っていたことです。『Return to Nangrim』のストーリーは、私が長い間語るタイミングを待っていたとある秘密を元にしたものです。書いているうちにどんどん大きくなってきて、爆発しそうな勢いです。

また、ストーリーの中のすべてのものが結びついている様子にもワクワクしています。Araffin の世界には、孤立して存在しているものはありません。先に述べたように、私たちは A 地点で有効な情報が B 地点でも有効であるという自己完結型の世界を作りたかったのです。これをゲーム全体のストーリーにも反映しようと試みました。たとえば、本の方を読んだ人のために、ちょっとしたクロスリファレンスを用意したりしています。

そのため、『Return to Nangrim』のキャラクターたちには、ゲームの枠を超えた現実の生活があります。私にとって、プレイしていてゲーム内のキャラクターやストーリーが本当にそこにいると感じられる時、最もやりがいを感じられます。『Return to Nangrim』でプレイヤーが同じ経験をすることを強く願っています。

回答内容の権利は Michela Rimensberger 氏に帰属します。

2021年10月19日 カテゴリ: ゲーム | 5 分 で読めます

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