TV アニメーション・劇場アニメーションを中心に、次々と創造的な作品を送り出す日本のアニメーションスタジオ、グラフィニカ(Graphinica,Inc.)。同社は「リアルタイムレンダリングで劇場レベルのアニメーションを作れるか」という課題に挑みました。Unity はグラフィニカと共同してこの実証実験に挑み、その成果を Unite Tokyo で発表しました。
グラフィニカは 10 年以上にわたり、2D と 3D の両分野で作品を制作、発表してきました。同社は制作のほとんどを自社内でまかなうことでも知られています。今年 9 月には新作の劇場アニメーション『HELLO WORLD』を日本全国の映画館で公開しました。
本作品の大部分は従来のプリレンダリング技術で作られていますが、主人公が仮想空間に飛び込む場面の背景表現の製作に Unity が採用されています。グラフィニカ取締役・平澤直氏によれば、 Unity を採用したことで、同社のアニメーションチームはより速く試行錯誤のサイクルを回せるようになったそうです。平澤氏は「お客様がより質の高い映像をよりタイムリーに楽しみたいと強く願うようになった結果、もはやリアルタイムレンダリングソフトウェアによる迅速な試行錯誤は不可欠と言ってもよい」と語っています。
作品の公開前、製作に取り組んでいたチームは、極めて複雑なリグや劇場アニメーションレベルのハイメッシュ、精密にコントロールされた影の表現など、これまでよりも難しい要素を盛り込んだシーンの製作に Unity のリアルタイムツールを使って、これまで劇場で上映してきた作品と同等のクオリティを維持できるか気がかりだったと言います。
この要求にこたえるため、グラフィニカは Unity のエンジニアと共同で『HELLO WORLD』のワンシーンを再現する実証実験を行いました。ただし今回は、リアルタイムレンダリングから開発中のアニメ制作ツールを使う形で実験が行われました。
このプロジェクトでは大きく 2 つのテクノロジーの実装にリソースが注ぎ込まれました。2 つのテクノロジーとは、リアルタイムレイトレーシングとシャドウ効果に関するテクノロジーです。そしてこれらのテクノロジーは日本で一般的なリミテッドアニメーションに特化した形で開発がすすめられました。特にシャドウ効果に関するテクノロジーとして開発された「Raytraced Hard Shadow」によって、グラフィニカのチームはプリレンダリング技術で作られたアニメに見られるような高品質・高精細なシャドウをリアルタイムで生成できるようになりました。
デジタルコンテンツ制作ツール(DCC ツール)から出力された、複雑なハイメッシュデータをリアルタイムで Unity に持ち込めるテクノロジーも重要な役割を果たしました。MeshSync に追加された VertexCache 機能は、DCC ツールから Unity に複雑なリグが組み込まれたアニメーションを直接インポートするワークフローの構築に大いに役立ちました。
Unite Tokyo で公開されたグラフィニカのデモからは、同社のチームが劇場アニメーションにふさわしい品質で作品の各シーンを再現するために、 Unity をどのように使ったかをうかがい知ることができます。
平澤氏は「クリエイターとエンジニアの円滑な連携に寄与する Unity は、制作プロセスを大きく進化させる可能性を秘めている」と語ります。
Unity の日本担当ディレクターである大前広樹は「今回公開したツールは Unity が日本のアニメ制作のためのソリューションとなる入り口であり、私たちは今後もアーティストのためのさまざまなツールの開発を続けていく」と語りました。
Unite Tokyo 2019 の 基調講演のアーカイブもぜひご覧ください。グラフィニカの平澤氏が、実証実験の概要と採用したソリューション、従来のワークフローと Unity を使ったリアルタイムワークフローとの比較などを織り交ぜたウォークスルーを行っています。