最近開かれたパネルセッションにおいて、Unity のアートツール部門の思想的リーダーが、アーティストファーストの精神で新しいパイプラインやワークフローを作ることの重要性について議論しました。リアルタイム 3D コンテンツ制作の頂点を極めるために、Unity のクラウドベースのツール群がアーティストたちにどのように力を与えることができるのかをご紹介します。
Wētā Digital と Ziva が、ArtEngine と SpeedTree もその一部となっている Unity のアートツール群に加わることを伝える一連の発表を受けて、クリエイターから最も多く聞かれた質問は「これは私にとってどのような意味をもつのでしょうか」というものでした。
今年の GDC に参加したことで、私たちはイノベーションを推進する業界の重鎮たちとともに、コミュニティと再びつながり、早急に答えるべき質問に答え、2022 年以降の Unity のビジョンをシェアする絶好の機会を得られたと考えています。
Wētā Digital の CTO を務める Joe Marks氏は、パネルセッションの冒頭で次のように述べました。「Unity は、誰もが創造性のあるビジョンを実現できるようにすることを使命としています」。そして、Wētā、Ziva、SpeedTree、ArtEngine といった技術を通じて、Unity のアートツールがどのような方法で、そしてどのような理由で、世界中のアーティストのために 3D コンテンツ制作の民主化を目指しているのかについて、ディスカッションを行いました。
グラフィックス革新におけるプロ向けアーティストリのチーフアーキテクトとして著名なテクニカルフェロー、Natalya Tatarchuck が説明したように、第 1 段階は Wētā や Ziva などのツールを Unity という同じ屋根の下に置き、利用するエンジンや DCC ツールに関係なく、すべてのアーティストが利用できるようにすることにかかっています。
「私たちの重要な目標は、単にツールを作るだけでなく、そこにいるアーティストに会いに行くことです」。
彼女はこう説明します。「私たちは、アーティストをつなげるワークフローを構築したいのです。スタジオの仕事で使っているツールが Maya でも、Houdini でも Bleander でも、またそのアーティストが VFX プロフェッショナルであっても、インディーゲーム開発者であっても一切関係ありません。アーティストが今使っているワークフローに、より馬力のある、より直感的なツールを導入し、そのツールでアーティストが成功することを望んでいます」。
先日リリースした新しいデモ『Enemies』で実証されたように、Unity のコアテクノロジーは、完全にリアルタイムでレンダリングされた、実写にしか見えないシネマティックシーンを生成するパワーをもって、すでにクリエイターを支えています。そして、私たちの取り組みはまだ始まったばかりです。
多くのアーティストが、デジタルコンテンツ制作のためのツールやパイプラインが断片化していると言っています。手作業が多いだけでなく、効果的なコラボレーションを行うには必ずしも適しているとは言えません。
このようなツールをうまく使うには、断片化したデータセットとバラバラの制作システムによる障害を取り除くことが第一に求められます。
この 2 年間、Unity はコンテンツオーサリング技術を取りまとめ、制作プロセスからそれらの障壁を取り除くために既存のアートストリツールの開発・改良を行ってきました。これは、今後の大きな優先事項です。Ziva の共同設立者でアカデミー賞受賞者の James Jacobs 氏が指摘するように、「私たちは、クリエイターが最高の体験をできるよう、本当に努力してきました」。
Unity にとってこれは、アーティストが直面する困難な問題の解決を加速させ、コンテンツ制作におけるイテレーションをこれまで以上に身近なものにすることを意味しています。
「3D アートが単なるアセットやささやかな野心という枠を超えて、さらなる広がりを見せていくことに、私は大きな興奮を抱いています」。
『ロード・オブ・ザ・リング』三部作でゴラムのフェイシャルアニメーションシステムを開発し、現在は Unity の開発者である Bay Raitt 氏は、このアーティストファーストの考え方が、プロ向けのアーティストリツールキットを構築するためになぜ重要なのかについて、率直な意見を与えてくれています。
「(コンテンツ制作ツールの中には、)固定化されているものがあり、いつも少し不満に思っていました。そのスタジオから離れると、『ああ、この断片的な部品を別々の方法で完成させる必要はないんだ』と思うのです。このようにネットワーク化された方法で、一緒に協調して部品を完成させることができるのです」。
このプロセスを合理化するために Unity が示した解法の 1 つが、Unity はパイプラインをクラウドに移行し、これらのツールへのアクセスを民主化することで、創造性が可能にするものの限界を押し広げ、新しい働き方を可能にすることです。
「Ziva としては、キャラクター制作のパイプラインが大幅に簡素化されます」と James は説明します。
「ZivaFaces や Ziva Face Trainer など、数多くのツールを利用できるようにすることで、キャラクターヘッドごとに数か月とは言わなくても、少なくとも数週間はかけて制作していたところ、クラウド上でボタンをクリックするだけで済ませられるのです。このような斬新なキャラクター制作パイプラインツールは、キャラクター制作パイプラインの途中のつまづきを取り除くことを目的としています。そしてただ制作プロセスを高速化するだけでなく、同じツールをより多くのクリエイターが利用できるようにすることも目指しています」。
すでに Bay は、このようなツールの整備によって開かれる創造的な可能性に触発され、近い将来を次のように思い描いています。「毛むくじゃらの木のモンスターが古い布を身にまとい、オイルを浴びて燃え上がるシークエンスを作ることは、もう大きなプロジェクトではありません。1 回のセッションで作って流せるようなものになるんです。3D アートが単なるアセットやささやかな野心という枠を超えて、さらなる広がりを見せていくことに、私は大きな興奮を抱いています」。
アーティストが「単なるアセットやささやかな野心」を超えてより広い世界に行くために、これらの強力なツールを取りまとめることに加え、すぐに使えるアセットを収録した豊富なコンテンツライブラリも準備中です。つまり、クリエイターはより早く没入感のある体験を構築し、高まる視聴者の要求を満たすことができるのです。
Natalya が言うように、「だからこそ、Wētā のライブラリや Wētā のアセットは、私たちにとって、とても興味深いものでした」。これらのアセットをベースラインとして、すぐ使えるようにしておくことで、恩恵を受けるクリエイターがたくさんいるであろうことを私たちは知っています。
このようなリッチなコンテンツとアーティストツールを組み合わせることで、コンテンツはプロシージャルになり、しかも非常にレスポンシブなものになるに違いありません。Bay によれば、「Wētā のシミュレーションから生まれたプロシージャル主義や、SpeedTree のプロシージャルな性質を、Ziva の機械学習で応用し、それをリアルタイムに持ってくれば、いつもまったく何もないところから始めるのではなく、実際にシミュレーションを実行できる、非常にリッチでレスポンシブなワールドを手にした状態から始めることができます」。
この考え方は、SpeedTree の創設者である Chris King 氏も同じです。「純粋にプロシージャルであろうとはせず、アートディレクションを入れるというコンセプトを加えました。いったん木が出来上がったなら、それを詳しく見て微調整をすることができます。アートディレクターが肩越しに見ているときは特にそうでしょう。私たちのツールは、それに対応できるように進化したのです」。
キャラクターやアセットを制作するパイプラインを効率化し、これらのツールやライブラリをクラウド化することで、あらゆるレベルのクリエイターが等しくアクセスでき、高品質な作品を制作することができます。
「徹底的に物を作ることが始められる新しい世界に突入しようとしているのです。突然、よりスマートな動作やバリアントがあらかじめ構築済みで、シミュレーションにすぐ使えるプロシージャルアセットでできた風景が使えるようになるのです」。
これにより、Bay が強調するように、クリエイターは複数のプラットフォームやフォーマットで作品を展開する機会を得ることができます。「Wētā が現実に近い表現ができるように最適化されている一方で、Unity はさまざまなデバイスで利用できるように最適化されたエコシステムがあります。ハイエンドのグラフィックカードを使った PC でゲームを遊んでもらうためだけにあるのではありません。コンソール機もそうだし、Switch もそうだし、Android もそうだし、携帯電話だってターゲットです。そして、どのデバイスでも等しく表現力を発揮できるようになったとき、クリエイターとして実際の 3D オーディエンスに、実に知的で効率的な方法でアクセスできるようになるのです」。
Unity の戦略は、究極的にはプラットフォームやオーディエンスを問わず、あらゆるタイプのクリエイターの創作活動を促進することに貢献します。Joe が言うように、
「プレイヤーの度肝を抜くゲームキャラクター、クローズアップ撮影にも耐えられる最新のバーチャルプロダクションのセットに立つデジタルのスタンドイン、これまでになくリアルな没入型トレーニングシナリオにバーチャルで参加する人々を想像してみてください。クリエイターの可能性は無限大です。そしてそれは、ほんの始まりに過ぎないのです」。
ハイライトは以下の動画でご覧になれます。