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『密航者』宇宙遊泳シーンのバーチャルプロダクションの舞台裏

2021年9月13日 カテゴリ: Industry | 8 分 で読めます
The director and cinematographer of stowaway talking through a space scene
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製作チームが Unity のバーチャルカメラ機能をどのように活用したか

この記事は 2021 年 6 月に befores & afters で公開された VFX ジャーナリスト Ian Failes 氏による記事の転載です。

ジョー・ペナ監督が緊迫する火星への旅を描く Netflix 作品『密航者』。この作品の最もドラマチックなシーンは、登場人物たちが宇宙船外のタンクから予備の酸素を取り出すために危険を顧みず行う宇宙遊泳の場面に集中しています。このシークエンスは、宇宙服を着た俳優を部分的なセットに立たせて撮影し、そこにビジュアルエフェクトを盛り込んでいくという形で撮影されました。

無重力感を出すため、ワイヤーワークや大量のビジュアルエフェクト、それに周到な事前準備が必要でした。こうした撮影を行う場合、従来はアーティストが 3D ツールを使ってショットの検討を行うプレビズの工程を経る必要がありました。しかし、この作品の制作ではプレビズの工程をもう一歩進化させ、ゲームエンジン Unity に、同じく Unity が提供するバーチャルカメラリグを接続し、RISE FX 社が作成したプレビズ用のアセットを使ってシーンを作成しました(RISE FX 社は最終版のビジュアルエフェクト製作も担当)。さらに、ペナ監督、撮影監督のクレメンス・ベッカー氏、VFX 撮影監督のヤニッケ・ミケルセン氏の 3 人は、ベルリンにある RISE FX 社のオフィスで、自分たちで直接ショットのイメージを固めていきました。  

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上の Unity の動画は、RISE FX 社のオフィスで行われたプレビズのためのバーチャルプロダクション撮影の一部を紹介したもの。映像クレジット:ライアン・モリソン氏、パトリック・ニュージェント氏、音楽トラック:ニマ・ファクララ氏。

密航者』がこのプリプロダクションの段階にあったころ、Unity(当時は Digital Monarch Media(DMM)社。2018 年下半期に Unity が買収)のチームが RISE FX 社を訪れ、映画制作チームと一緒にプレビズ作業を行いました。チームはバーチャルカメラ(V-cam)ユニット「Expozure VFT」を携えてきました。V-cam のコントローラーを使って、タブレットのような画面または外部接続のより大きな画面でシーンを見ながら、特注のユニットを使って、宇宙空間内で位置を追跡しているバーチャルカメラを「操作」し、宇宙遊泳のシーンに必要なアングルやカメラの動き、ストーリーを伝えるためのポイントを考えていくというものでした。

このように Unity ゲームエンジンを使うワークフローでは、プレビジュアライゼーションをすべてリアルタイムで行い、すぐにフィードバックを得て、何度も繰り返し行うということが当たり前のようにできます。最終的には、さまざまな「テイク」を記録・編集してプレビズ済みのシーケンスを形成し、それを最終版の映像とビジュアルエフェクトのテンプレートとして使うという手法が取られました。

 

Director Joe Penna navigates a space scene in Unity
ジョー・ペナ監督

仕組み

まずは RISE 社がアセットを構築するところからスタートしました。この時点ではアセットはプレビズに使うためだけのものですが、最終的には映画に登場するアセットへと仕上げられていきます。キャラクターのアニメーションは、マスターシーンに基本的な動きをキーフレームで入れていきます。DMM 社の共同設立者で、『ブレードランナー 2049』や『グレイハウンド』などの作品で同様のプレビズ作業を監督した経験を持つハビブ・ザーガルプール氏は、「撮影チームは、Unity システムを使うことで、最初から最後まで、そのシーンのカバレッジを撮るために好きな方法で少しずつ撮影するというスタイルを採ることができるでしょう」とアドバイスを送ります。

カメラや機材を持って、実際に撮影をする人が宇宙船に乗って撮影をしたかのようにカバレッジを作るというアイデアでした。ザーガルプール氏によれば、ペナ監督、ベッカー氏、ミケルセン氏の 3 人は、V-cam の操作をすぐに覚えたと言います。「重さがあるから、自動的に勢いがつくし、手ブレをあまり気にしなくてもいいのです。質量があるだけで自動的に減衰します。物理的に何かを操作しているときの感覚に近い、アナログ的な側面があります。」

Cinematographer Jannicke Mikkelsen films a space scene in Unity
VFX 撮影監督のヤニッケ・ミケルセン氏

撮影チームは V-cam に対して、ビューファインダーを搭載した手持ちのユニットで見る用途と、テレビの大画面で映像を見る用途とに分けて、2 種類の設定をすることができました。最初の段階では、V-cam を使ってバーチャルセットを見渡し、ショットを構成しました。その後、現実世界に立ち戻り、収録結果をより技術的なビジュアライゼーションに向けて改良することができます。つまり、そのショットが実際のセットで実現可能かどうか、つまり撮影可能かどうかをチェックするのです。

実際、このシステムの特徴の 1 つは、現実のカメラレンズや、ドリー、カーブドリー、ドローン、三脚などのリグを再現できることでした。「特に、実際のセットで行うことをイメージしているのであれば、そのように即座に実世界のリグを模倣することが重要になります」とザーガルプール氏はアドバイスします。「つまり、ドリーを使った時に、それでショットの撮影がどのくらい上手く行くのか見てみたいということです。ドリーをどこに取り付ければいいのか。どのくらいの高さが必要なのか。」

Image of the raw footage being touched up in Unity
リアルタイムプレビズからの 1 コマ

バーチャルカメラシステムに記録されたテイクは「ライブ」です。これにより、Unity のシーンに戻って、特定のテイクに移動し、そこを調整することが可能になりました。カメラの動きを変えたり、レンズを変えてみたり、ライティングを変えてみたり、何か違うものに焦点を当ててみたり。「モデルをアップデートしたり、解像度を上げたり、あらゆる修正を行うことができます」とザーガルプール氏は言います。

撮影現場では、レンダリングされたプレビズシーンが撮影のガイドとなりますが、ザーガルプール氏は、必要に応じて「エンジン内」で調整を続けたり、バーチャルセットを見回してショットの構図を考えたりするという選択肢もあると述べています。

Director of photography Klemens Becker

「嬉しいのは、キーとなるクリエイターが実際にツールを使っている姿を見られることです」とザーガルプール氏は言います。「『このショットはこうだ』と誰か他の人が決めて、そこに監督がメモしていくというのではないんです。それが成功した理由だと思います。仕事がライブで、一緒に行われたことがです。」

Unity におけるバーチャルプロダクションの未来

4 月に Netflix で公開された『密航者』で採用されて以来、Unity のバーチャルシネマトグラフィの機能は拡大し続けています。

Cinematographer Ryan Morrison reviews a space scene in Unity

特に Unity は最近、一連の Cinematics 機能をリリースしました。これらのツールの中には、例えば、iPad Pro のトラッキング機能や AR 機能を活用するためのものもあれば、バーチャルカメラ、フェイシャルキャプチャー、シークエンス編集にまで踏み込んだものもあります。一方で、レイトレーシングで作られたシーン、複雑なエフェクトのシミュレーションやボリューメトリックなど、映画的な表現を実現するための Unity の機能は、継続的に改善されてきました。

こうした動きの中にある思想は、リアルタイムのツールをさらに身近なものにすることだとザーガルプール氏は言います。「私たちは、新しいツールを基礎にして必要な機能を構築し、そしてそれをさらに強化しつつ、初期のシステムですでに持っている機能の維持も行います。新しいツールが、プロジェクトの構想から最終的なショットの撮影まで、すべての工程で、すべてのクリエイターに利用されることを期待しています。」

さらに知りたい人のために

アニメーション制作者:Unity Pro で利用可能な Cinematics 機能の詳細をお読みいただき、iTunes App Store から iOS 用の Unity Virtual Camera アプリを無料でダウンロードしてください。 

2021年9月13日 カテゴリ: Industry | 8 分 で読めます

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