「何かを学ぶとき、実際にそれを行なうことによって我々は学ぶ。」 - アリストテレス
実際にやってみることが最も効果的な学習方法の 1 つであることは、多くの人にとって経験からかなり明白なことだと思えるでしょう。古き良き「試行錯誤」という方法は、すばらしい学び方なのです。職業訓練の世界では、これをアクティブラーニングと呼んでいます。もう 1 つ、私たちが考えるのは結果の重大性です。「現実の世界で誰かが何かを間違えたら、どれだけ悪い結果をもたらすか」ということです。これは、心臓外科医が間違った動脈を切ってしまうような致命的なものから、グラフィックアーティストが間違った設定を使い、ある効果を得ることができなかったという取るに足らないものまで、さまざまな場合があります。
トレーニングに関しては、結果の重大性とアクティブラーニングの関係が重要です。間違うと大惨事になる可能性のある作業のやり方を学んでもらうなら、実際にその作業を行うときには最初から上手にできるようになってほしいものです。パイロットが実物の飛行機に乗って試行錯誤しながら学ぶというのは、やはり誰も望んでいないでしょう。そこで大きなインパクトを与えているのが、VR です。トレーニングを受ける人は、現実のような環境の中で動き回りながら練習することができ、失敗しても安心できる空間で学ぶことができます。さらに付け加えるなら、没入型学習には現実空間でのトレーニングシミュレーションと同程度に効果があることが示されています。
VR トレーニングに関するすばらしい事例として、ノルウェーの企業 Connect The Dots 社(CTD)があります。CTD は、医療従事者が広範な処置のトレーニングを行えるバーチャルワールドの開発に、Unity を採用しました。
バーチャルリアリティのトレーニングモデルは、年間で累計 2,000 万人の死因となる複数の症状についての臨床観察、リスク評価、構造化されたコミュニケーションのトレーニングに使用することができます。
同社の CTO である Håvard Snarby 氏は、テクノロジーと教育の双方に情熱を注いでいます。彼はノルウェー科学技術大学在学中に、VR を使った場合の学習効果に関する研究を行いました。研究の結果、臨床学生は医療用ダミーでの従来のシミュレーションよりも、VR でのトレーニング後の方がより意欲が高く、トレーニング内容の定着も良好になることがわかりました。そこで彼は経済学と財務管理を専門とする妹の Siva Snarby 氏と協力し、医療従事者が臨床現場で実際に起こる出来事に対応できるように、CTD を設立したのです。
当初、このツールは Oculus 向けに開発がスタートしましたが、CTD はその後、トレーニングを展開するヘッドセットの幅を広げるため、Unity XR プラットフォームに移行しています。ワイヤレスの VR ヘッドセットを装着するだけで誰でも簡単にトレーニングができるように、複雑さや技術的なノウハウの必要性を最小限に抑えることが考えられています。
このような形でトレーニングを行うには、2 つの重要な要素があります。まず、リアル感を出すための忠実度の高さです。このツールは確かにそれを実現しています。バーチャル空間の患者は複数のネガティブな事象を経験しますし、正しい行動をとらないと亡くなってしまうことさえあります。アルタで開催されたシミュレーションに関するカンファレンスで、ノルウェー保健総局の Anne Kristin Ihle Melby 氏が初めて VR ヘッドセットを試用し、次のように発言しました。「CTD Helse の体験はトレーニング状況が非常にリアルで、私には現実世界の環境で実際の人を対象にトレーニングしていると感じられました。現実世界にいるように感じられて驚きました。これは、現在の伝統的なトレーニング方法を補完し、より多くの人がより多くのトレーニングを重ねられるようになると強く信じています。VR 技術は、医療サービスの能力向上に重要な貢献をすることができます」。
Håvard さんの言葉を借りれば、「現実世界で 1 回失敗するよりも、VR で 1000 回挑戦して失敗したほうがいい」ということです。
2 つ目は、学習効果に悪影響を与えない形で、この種のトレーニングにかかるコストとリソースを削減することができるということです。このツールを使えば、ノルウェー全土の臨床医が 1 か所に集まることなくトレーニングできることになります。ノルウェーのような規模の国では、これによって多くの時間とリソースを節約することができます。このことは、遠隔地や地球上で開発が十分されていない地域での医療についても大きな可能性を秘めています。
CTD はまた、教室で一緒に学ぶという、共有された学習体験のシミュレーションも行います。トレーニングを受ける人は個人でトレーニングを行うだけでなく、インストラクターの指導を受けながら一緒にトレーニングを行うことも可能です。ノルウェー全土の学生が地元にいながら、リアルタイムに学習・コミュニケーションすることができます。
Håvard さんは、VR 技術が医療トレーニングに活用されるタイミングが来たと考えています。「7、8 年前だとまだ市場が立ち上がっていませんでしたが、今は誰もが興味を持っています。まだ懐疑的な人もいますが、一度アプリを試せば考えを改めてくれます」。
医療分野でのもう 1 つの例は VirtaMed LaparoS です。これは Unity の 3D デジタルツイン技術と触覚フィードバックを活用し、非常にリアルな手術トレーニングを提供するものです。VirtaMed 社の腹腔鏡トレーニングシミュレーターは、従来の医療トレーニングの常識を覆すものです。外科手術トレーニングの学習曲線の負担を、患者からシミュレーターに移すことができます。
このようなシミュレーションを行うことで、トレーニングを受ける人たちの不信感をぬぐい、訓練シナリオに没頭させることができます。たとえば、トレーニング中にバーチャル世界の中の患者が出血したとして、その様子が十分にリアルに描かれていれば、トレーニングを受ける人は迅速な解決策を導き出すために真摯に取り組むようになるでしょう。
また、LaparoS シミュレーターは、トレーニングを受ける人の振る舞いをミリ単位の精度で記録し、手技を行っている間のパフォーマンスだけでなく、シミュレーションの中の患者に対する治療によって起こりうる結果についても貴重なフィードバックを提供します。
腹部など体の一部のデジタルツインを使用したシミュレーショントレーニングは、学習を加速させ、新人の外科医がより早く手術室に入って仕事ができるようにするだけでなく、チームでのトレーニングシナリオも実施可能にすることで、トレーニング全体のコストを削減します。
VR トレーニングは、医療教育において興味深い応用例が多数見られますが、この技術はその他多くの分野でも導入されています。公共セクターでは、Axon 社が警察官のパフォーマンスを向上させ、クリティカルシンキング、およびディエスカレーション(コミュニケーション技法により、相手の攻撃性・興奮を和らげる手法)スキルを強化する没入型 VR トレーニングを開発しました。Axon VR を使い、警察官は精神衛生やトラウマなど、複雑な現実世界のシナリオに没入します。このような体験を通して、トレーニングを受ける人たちは自信を持ち、新たな洞察力、意識、視点をもって地域社会の要請に応え、相互に有益な結果をもたらす機会を広げることができるのです。Axon VR トレーニングプラットフォームは、現在 1,200 以上の法執行機関で利用されています。
民間セクターでは、フォルクスワーゲンが VR トレーニングをいち早く採用することで、長期的な生産性の観点で優位に立とうとする試みをしています。2018 年には同社の従業員のうち 10,000 人に対して VR トレーニングを導入し、車両の組み立てから顧客サービスまで、あらゆるトレーニングを施しました。さらに、最先端のトレーニングキャンパスを建設し、3,000 人の従業員が VR とバーチャル組み立てトレーニング(VAT)を使用した 2 日間のコースで e-モビリティ(電力を動力とする車両を利用すること)に関するスキルを学ぶところまで取り組みは進んでいるそうです。
このほかにも、研修ツールとして VR を導入している例は数え切れないほどあります。実際、トレーニングのユースケースでの投資額は、IDC が 2024 年時点での商業目的での投資額として推定した 41 億ドルを超えています。
ここでは、VR トレーニングに関する興味深い統計データをご紹介します。
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