『Cult of the Lamb』はこの夏、初週で 100 万本を突破する大ヒットを記録しました。Massive Monster のユニークな世界観を持つダンジョン探索、拠点構築、ローグライトのハイブリッドのゲームにおいて、プレイヤーはカルト教団の憑りつかれたリーダー子羊を演じることになります。
プレイヤーの使命は何でしょうか。森の生き物を教化し、闇の儀式を行い、ボスを狩ることです。すべては、畏怖すべき存在「待ちうけし者(The One Who Waits)」を鎮め、「真なる教団(the one true cult)」の指導者となるためです。このゲームを成功に導いた大きな要因は、レビュアーが「addictive(中毒性がある)」、「satisfying(達成感がある)」、あるいは「perfect(完璧)」と表現した、魅力的なゲームプレイのループにあります。
Massive Monster のデザインディレクター兼リードプログラマーの Jay Armstrong 氏に、どのようにジャンルの組み合わせを選んだのか、2 つのジャンルを 1 つのゲームにまとめる上でどのようにバランスを取ったのか、そして困難を乗り越えて開発の焦点を保つための秘訣を語ってもらいました。
Massive Monster のチームメンバー、Jay Armstrong 氏、Julian Wilton 氏(クリエイティブディレクター)、James “Jimp” Pearmain 氏(アートディレクター)は、シンガポール、オーストラリア、イギリスとそれぞれ離れた場所に散らばっています。皆さんはどのようにして出会い、一緒にゲームを作り始めたのでしょうか。
みんな最初は個人で Flash ゲームを作っていたんです。私たちが初めて出会ったのは、Flash のゲームシーン、フォーラム、イベントを通じてでした。いろいろなゲームを一緒に作っていたのですが、Flash ゲームが廃れてしまったので、チームを組んでデスクトップやコンソール向けのゲームを作ろうと思ったんです。
Julian と私が一緒に作った最初のゲームは『Super Adventure Pals』で、それからほぼ 10 年後に『Cult of the Lamb』を発表しました。だから、私たち 3 人はずっと組んでいたということです。
どこから『Cult of the Lamb』のインスピレーションを得たのでしょうか。また、どのようにアイデアを練ったのでしょうか。
面白いことに、カルト要素が出てくるのはかなり後になってからなんです。実はこのゲームは、ローグライクとコロニーシム・拠点構築ゲームというジャンルを組み合わせるというアイデアから始まりました。『RimWorld』や『Enter the Gungeon』のようなゲームでは、面白い創発物語(ゲームの仕組みから生まれる物語)がたくさん作られていて、ゲームでの体験が遊ぶ人ごとにユニークなものになっていることに気づきました。この 2 つのジャンルを組み合わせることで、単に足し合わせたよりもすごいものができるのではないかと思い、直近の PAX(訳注:アメリカ・オーストラリアで開催される大規模ゲームコンベンション)で外部の人に見せようと思ってプロトタイプを作ったんです。
Jimp と Julian に見せてみたら彼らはこのゲームを気に入ってくれたのですが、パブリッシャーに売り込むのがとても難しいゲームであることがすぐにわかりました。この時点では、まだカルト的なテーマは思いついていませんでした。ゲームを一言で売り込む方法を考えなければならないと思っていました。簡単に説明できて、すぐに理解してもらえるようなプレイヤーの物語が必要だったのです。最終的にカルト要素を入れるアイデアにたどり着くまで、約 9 か月間、さまざまなテーマを試しました。
それができてからの 3 年間は、ゲームのテーマが生み出す「約束」を守り続けることがすべてでした。このゲームでは、カルト教団を率いているような感覚を味わう必要がありました。だから、儀式や説教という要素が必要だったのです。しかし、そのゲームの仕組みをどう作るかを見出すまでに、たくさんの反復作業と実験を行う必要がありました。目的を達成できないアイデアをカットし、ゲームがどうありたいかを「聞く」ことには非常に慣れました。どんな体験にしたいかという明確な目標があることで、全員が同じ考えで取り組めましたし、何かがうまくいっていて、何がうまくいっていないかが一目瞭然になるのです。
『Cult of the Lamb』はあなたの初めての Unity プロジェクトです。なぜ Unity で作ることを選んだのでしょうか。
その通り、『Cult of the Lamb』は私たちの初めての Unity プロジェクトです。私たちが Unity を選んだのは、それがイテレーションや素早いテスト、デザイナーがステージをレイアウトする上で優れたツールを提供しているからです。これまでは自分たちでエディターを作っていましたが、Unity や Asset Store で利用できるツールを使えば、時間を大きく節約できます。また、自分たちで好きなツールを作ることができる柔軟性もあります。
2.5D のルックを実現するためにこのゲームで行われている 2D と 3D の組み合わせを管理する上で、Unity はどのように役立ちましたか。
2.5D ルックを選んだ理由のひとつは、Unity に移行して、初めて 3D エンジンを使うことになったからです。普通の 2D にこだわっていたらもったいない気がして、1 本追加されたその軸を活用することにしたんです。
スプライトを動かして擬似 3D 構造を作ったり、エディターを使ってキャラクターやカメラのベストアングルを決めたりできて、とても楽しかったです。
なぜ、トップダウン視点を採用したのですか。実装時に直面した課題と、それをどのように解決したのかも教えてください。
視点に関する主な問題は、カメラが固定されることが比較的多いことでした。これでは戦闘の見せ方や、物の配置の選択肢が狭まってしまうのです。トップダウン視点を採用しているので、重要なものをすべて画面の上部や後ろ側に配置する必要がありました。コツをつかめば大丈夫でした。それに制約を作ると、クリエイティブな解決策を考えざるを得なくなります。
『Cult of the Lamb』のルックを作成する上で、Unity のライティングはどのような利点をもたらしましたか。
『Cult of the Lamb』をカッコよく見せるには、ライティングがとても重要なポイントになります。非常に才能のある友人、Jonathan Swanson が、すべてのライティングの設定をサポートしてくれました。2.5D のセットアップなので、カスタムのソリューションをいくつか作成する必要がありました。しかし、ひとたびそれが実現すれば、ゲームは大きく進化します。
アーティストが直接 Unity で作業したのでしょうか。
そうです。全員が同時に直接作業することで、膨大な時間を節約することができました。アーティストやデザイナーが直接何かを実装することは、とても素晴らしいことです。これによって、プログラマーの時間を節約するだけでなく、アーティストやデザイナーが思った通りの外観に仕上げることができるという利点が生まれます。
Flash で作り始めた頃は、1 人の人間がすべてをプロジェクトに実装しなければならず、アセットも電子メールで送っていました。これが大きなボトルネックになっていました。才能のあるアーティストに道具を渡し、彼らに彼らの仕事をさせられるということは、とても安心できることです。
2 つのまったく異なるゲームのコンセプトを組み合わせてできたものを、プロジェクトのスコープを維持しながら、どのように洗練させていったのでしょうか。
確かに難しい問題でしたね。『Cult of the Lamb』は、一方のゲームがもう一方と互いにかみ合ってはじめてうまくいきます。片方が壊れていたり、本来の良さを発揮できなかったりすると、ゲーム全体が崩壊してしまうんです。リリースの本当に直前まで、まとまりませんでした。私たちはただ、できる限りの努力をし続け、蹴とばしたり叫んだりしながらなんとかゲームを完成まで持っていったんです。
ゲームに入れたいアイデアはまだまだいっぱいありました。しかし、新しいものを追加するのをやめ、できるだけまとまりのあるものにし、ゲームループ自体もできるだけ魅力的なものにすることに集中しなければならないタイミングがやってきました。そこが、このゲームに本当の魔法がかかった場所です。ゲームのリリース後もいろいろと追加していく予定です。
機能を追加する際、どのようにテストを行ったのでしょうか。
チームのみんなが定期的にプレイテストをするんです。開発の後半では、パブリッシャーの協力でフォーカスグループとつながり、フィードバックを得ることができました。本来であればどこかで展示を行ってプレイヤーの意見を聞きたかったところですが、COVID のため、実質的にチームで暗中模索しながら作っていました。プレイヤーがどう思うかはまったくわかりませんでしたね。
ローグライクの要素についてですが、ランダム化はどのように実装したのでしょうか。ここでのバランス調整で一番苦労したのはどこでしょうか。
私たちのチームメンバーのゲームのスキルレベルには非常に幅があります。そこで、Julian には「易しい」、私には「中くらい」、Jimp には「難しい」となるようにバランス調整を行いました。
ダンジョン探索ゲームのもう 1 つ良いところは、ランダム化のバランスをそこまで調整しなくてもいいということです。運がいいときもあれば、本当に運が悪いときもある、そんな感じでプレイできるほうが実は楽しいんです。そのばらつきがあるからこそ、楽しいんです。
バランス調整は、キャラクターの初期装備の武器のレベルに、敵やボスの HP を合わせるということが主でした。それから、信仰度や満腹度に関する実験も行いました。
また、プレイヤーが苦戦している場合にプレイヤーに合わせて調整する仕組みもたくさん盛り込まれています。例えば、体力が少なくなると、草むらでハートを見つけたり、宝箱からハートが出てきたりする確率が高くなります。
GDC の Twitch 配信で、あなたとあなたのチームは、カルト教団のメンバーを利用することがゲームの中心であると話していましたね。プレイヤーが教団を運営する上で難しいがインパクトのある選択をしていると感じさせるために、どのような工夫をされたのでしょうか。
これはかなり早い段階から決めていたことで、ゲームの DNA 全体に浸透していることでもあります。実は、これは私たちがデザインを決定する際にもほぼ毎回入っている要素です。
1 つだけ考えるのに時間がかかった要素がありました。それは、信者を犠牲にすることに価値を感じるようにするにはどうしたらいいかということです。最初はゴールドがもらえるだけだったのですが、その価値が十分に感じられなかったので、プレイヤーにとってもっと魅力的なものにする必要があると思いました。そのため、即座にレベルアップするように変更しました。そうすると突然、プレイヤーが信者を犠牲にすることが多くなったのです。
また、信者の命と引き換えに自分を生き返らせるというアイデアも、かなり初期から考えていました。それは元々ゲームのコアとなる仕組みだったのですが、実際に導入したのは少し後のことでした。レベルアップした信者がより多くのハートをくれるようにしたのは、
プレイヤーがある教団のメンバーに投資し、手をかければかけるほど、そのメンバーを手にかけたくなるようにしました。基本的に、プレイヤーが手をかけたものに恐ろしいことをしたくなる誘惑に駆られるようにしています。
『Cult of the Lamb』の制作中に学んだことで、次のプロジェクトへの取り組み方に影響を与えそうな最も重要なことは何でしょうか。
テーマを決めて、3 つのデザインの柱を作ること。これが、そのテーマが生み出す約束を満足する方法です。例えば、カルト教団のゲームであれば、生贄の儀式が必要だということが分かります。それがゲームの仕組みの中でどのように使われるのかがまだわかっていないとしても、です。
こうしたデザインの柱があれば、デザインにまつわるあらゆる判断は、この柱に直接フィードバックされるものでなければならなくなります。すごくいいアイデアを思いついたとしても、それがその柱を支えるものでなければ捨てなければなりません。そうしないと、ゲームの焦点がぼけてしまいます。
コンセプトから始めること。たとえば、X と Y の出会いというような。単なるメトロイドバニアや『Stardew Valley』のクローンを作らないことです。メトロイドバニアを作るにしても、何か新しくてワクワクするものを提供するために、もうひと工夫するんです。そうすれば、パブリッシャー、会合、プレスに持って行く時、ずっと楽になります。加えて、より難しいことかもしれませんが、自分自身に挑むことは非常にやりがいを感じさせてくれます。
『Cult of the Lamb』は、Nintendo Switch™、PC、PlayStation®4、PlayStation®5、Xbox One、Xbox Series X/S 向けに発売中です。Twitter で @MassiveMonsters をフォローして、最新情報をチェックしましょう。また Indie Innovation hub では、今回の記事の他にもゲーム業界に波を起こす Unity クリエイターを特集したストーリーが公開されていますので、ぜひご覧ください。
回答は Jay Armstrong 氏によるものです。
Nintendo Switch は任天堂の商標です。