こんにちは。Plamen ‘Paco’ Tamnev です。ここ数年は 3D キャラクターおよび環境アーティストとして Unity の Demo チームに所属し、日々楽しみながら仕事をしています。過去には『Book of the Dead』、『Adam』、『The Blacksmith』などのプロジェクトに関わりました。この記事では、『The Heretic』プロジェクトの環境アートの制作プロセスの裏側について書いてみようと思います。
主に動画の第 2 パートの環境に焦点を当てます。これは私たちの間で「王座の間(the throne room)」とか「Morgan の小部屋(Morgan’s chamber)」などと呼ばれているものです。私がこれらの環境について、コンセプトからシーンの最終処理まで手掛ける機会を得たので、そのように呼ぶようにしたのですが。プロジェクトの他のパートについてもっと知りたい方や、『The Heretic』に関してご質問のある方は、5 月 12 日火曜日(日本時間 5 月 13 日午前 1 時(5 月 12 日 25 時))の私のチームによる「Meet the Devs」ライブセッションにぜひご参加ください。セッションの予定はこちらのリンクから皆さんのカレンダーに追加することができます。このセッションでは皆さんからフォーラムのスレッドに投稿されたご質問にお答えする形の質疑応答の時間を設ける予定です。
前のプロジェクトの『Book of the Dead』や、『The Heretic』の第 1 パートではほとんどキャラクターの仕事をしていたので、環境アートのほうに戻ってきて新鮮な気分で仕事をしています。
動画の文脈の中で、いろいろなアイデアを実験することができました。同時に、取りうる選択肢が多すぎるのもかえって良くないので、注意する必要がありました。私は、時として最高に創造的な仕事は制約とそれを乗り越えようとする方法から生まれると考えています。
私たちのディレクターである Veselin Efremov と、最初の段階でいくらかブレインストーミングを行ったあと、手元にあった圧倒されるような数の制作上の選択肢をどのように絞り込んでいくか考え始めました。私はまず、このプロジェクトで盛り込むことはないだろうと考えていたいくつかのアイデアを試してみることから始めました。これは、そうすることで選択肢をいくらか絞り込めると考えていましたし、何年にもわたる私の経験から、何が上手く行かないかを知ることは、時として上手くいくアイデアにたどり着くことと同じくらい重要であると知っていたからです。
ブレインストーミングで私たちが最初に集めた参考資料のうちいくらかは、どんな種類の要素が上手くはまるかに関するものでした。参考資料のボード全体をご覧になりたい方は、Pinterest をご覧ください。
まず、資料をざっくりと見渡してみて、引っかかりがあるものを残しました。この作業から得られた要素の中には、プロジェクトが終わるまで生き残ったものもあります。最初に出したアイデアの多くはやや有機的すぎたり、示唆的に過ぎたりして、他の人からはまるで洞窟のようだと思われていました。
そこで私は要素を並べてみたり、対称形にしたりする実験を始めました。そうして、様々な形やアイデアの基礎にできる小さなキットバッシュを作りました。こうした実験がシーンの初期の概略図を描くときに非常に役に立ちました。何も描かれていなかったキャンバスをキットバッシュで埋めることで、文脈の中で作業を始めることができるようになったのです。
さまざまなアート上のディレクションについて考えたことが、ディレクターやアニメーションディレクターがシーンのカメラの持つ可能性に気づく助けとなりました。後に、実際のデザインやアセット制作については改めて述べようと思います。
私が行った初期の実験はキットバッシュのセットばかりを使っていました。残りのスペースは、HDRP Lit シェーダーで Tri-planar UV を使ったマテリアルとテクスチャーでタイリングされた、非常に単純なシェイプやプリミティブでレイアウトされました。
これはごく初期のシーンについての実験の例の 1 つです。後のバージョンに比べると非常に抽象的であることがわかるでしょう。
シーン内の多くのオブジェクトに少なくとも 1 つ、クローズアップにも耐える詳細なテクスチャーを使いました。こうすることで、最小限の労力でアセットをプレゼンテーションできる状態まで持っていくことができました。
ライティングでの実験はある種の諸刃の剣でした。一面では私がお見せしている個別のデザインを売り込むのに役立ちましたが、ライティング条件やカメラアングルが大きく変わったとき、シーンがどのように見えるかを予想することが難しかったという面もありました。
ご覧になればわかるように、デザインはプロジェクトの段階を進めるに従って大きくその形を変えていきました。
今にして思えば、もう少し早く具体的なコンセプトを決めておけばよかったと思います。それがこのプロジェクトで得た一番の教訓かもしれません。最終的なシーンの仕上がりには満足していますが、これより前のバージョンでもそれぞれうまくいったのではないかと思います。長く何かを見ていると、客観的な視点を保つのが難しくなり、だらだらと新しいアイデアを取り入れてしまうことがあるのです。
これは最終的な成果物にいくらか近づいた段階の、反復して改良を加えている最中のシーンです。
これは私たちが必要としていたさまざまなショットの実制作と仕上げにより集中する前に、私が完成させた「王座の間」の最終コンセプトの 1 つです。
それらのシーンのために、標準的な Unity のライトとリフレクションプローブだけを使った仮のライティングを作りました。ムービーの最終的な照明はディレクターが作ったもので、設定もかなり違っています。最初は典型的なゲームレベルのような設定で、コンセプトを提示し、いくつかの可能性のあるアイデアを与えることを目的としていました。最終的なライティングの設定は、ショットごとに構築されました。
私たちはディレクターにシーンの特定の部分について 1 つか 2 つだけ良いアングルを抜き出して制約を与えてしまうのではなく、ディレクターが多くの良い選択肢から選び出すことができるように、できるだけ多くの面白いカメラアングルを見出す機会を求めました。
それが、私が特定の要素やカメラアングルに過度に焦点を当てたくなかった理由です。これは「言うは易し行うは難し」であることは事実です。あるアングルからの見え方が良いと思ったら、その個人的に良いと思ったショットに過剰な労力をつぎ込みたくなってしまうものだからです。
いくつかの視覚的な要素で、シーンにもう少し垂直方向の広がりを加えてみました。例えば、床の下の部分を見てください。キャラクターが平面上を歩いているにもかかわらず、他の様々な要素と合わせて、環境全体の奥行きを感じさせることができます。これにより、特定のショットに光源を追加できる可能性も増しました。
最終デザインは初期のバージョンに比べると大きく変わりましたが、いくつかの要素、たとえば人間の形や幾何学的なつながりなどは、最初の実験から最終プロジェクトまでそのまま使いました。
例えば、小部屋の中央のガラスの下にある回転する要素は、早い段階でシーンを反復修正する中で重要な役割を果たしていました。これもまた、深みを増す重要な要素として機能していたのです。また、私はこれを「王座の間」の心臓部に見立てています。
私は、カスタム UV やテクスチャーを持つアセットに頼りすぎず、可能な限りタイル化されたマテリアルやテクスチャーを使用したいと考えていました。多くの場合、個々のアセットを手動でアンラップする代わりに、Lit シェーダーの Tri-planar マッピング機能を使用しました。さらにディテールを加えたいときは、必要に応じてトリムシートテクスチャーといくつかの幾何学的デカールを使用しました。
カスタムアセットやテクスチャーを使いすぎずに全体をまとめ上げるうえで最も重要だったのは、Unity Decal Projector を使いこなすことでした。これは非破壊的な方法でシーン上での反復的な修正をするのに役立ち、またシーンに自然な摩耗感をとても良い形で加えてくれました。こうした要素が、タイルを多用すると簡単に失われてしまうアセットの手作り感を出すために非常に役立ちました。
Unity エディターで見るのと同じように「王座の間」を少しずつ違う様々なアングルからご覧ください。ある意味では、これが「王座の間」の心臓部とも言える部分でした。
「王座の間」の後に Morgan が登場するパートについては、橋と「王座の間」の外側のファサードを作ることになっていました。これにもいくらかの変更を加えましたが、従来と同じジオメトリのセットを使って、ほとんど専用のプロトタイプが作られました。
その初期バージョンは、求めていたものよりも少し閉塞感があって閉じ込められた感じがしたので、その次のデザイン修正で、メインの建物以外すべてのものを取り払いました。
外側の領域が大幅に変わったのに、建物と橋の全体的な見た目は最終バージョンのものとどこか似ています。ここでも、私は内装のために作ったキットバッシュと、たくさんのデカールを使ってほとんどの作業を行いました。
Morgan の周りの環境は驚くほど早くまとまりました。事前にいくつかの静的なメッシュを使って実験してみましたが、完全に正しいと思えるものには出会えませんでした。 Morgan の周りの環境はただの環境の延長というわけではなく、他から区別された空間であることがより感じられるようにしたかったのです。テクニカルアーティストの Adrian Lazar の助けを借りて、とても使いやすく実験しやすいパーティクルシステムを作ってもらい、Morgan の周りの環境のレイアウトを始めました。最初は色と動きで遊んでみました。プロジェクトの特定の部分では、2 種類のパーティクルシステムを短い時間で最大限に活用するために、スケーリングでどれだけのことができるかを試してみました。
動画の前半の環境については、Georgi Simeonov、Treehouse Ninjas、および Julien Heijmans と共に作業しました。この部分ではまったく違ったアプローチを取り、カスタムアセットにより依存しました。Treehouse Ninjas と Julien Heijmans にはこれらの作業において協力してもらい、Georgi Simeonov はそのシーンの空間のすべてのコンセプトと、エディター内でシーンを直接構築する作業の一部を担当しました。
制作中のほとんどの時期において、『The Heretic』は「The Cave」というコードネームで呼ばれていましたが、最終版では洞窟がほとんどなかったので、これはチーム内でのジョークになっていました。このコードネームは、失われた都市がある空間に関する初期のアイデアから来ています。広大な洞窟のような構造物の下に都市があるはずだったのですが、最終的には、それがより良いと思われたので、屋外の開けた場所に都市を置くことにしました。
このプロジェクトはとても楽しかったですし、大変な時期もありましたが、多くのことを学ぶことができた素晴らしい旅でした。アーティストとして私が Demo チームで与えられているような裁量は私たちの業界ではなかなか手に入れられないものですし、素晴らしい才能を持った人たちと一緒に仕事をする機会にも恵まれました。
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