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野心的なアート:ミストウォーカーは『ファンタジアン』の壮大なビジョンをいかに実現させたか

2022年5月16日 カテゴリ: ゲーム | 12 分 で読めます
Fantasian game character in an action pose over a pixelated black and purple background
Fantasian game character in an action pose over a pixelated black and purple background
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ファイナルファンタジー』シリーズの制作に携わったクリエイターにして、ミストウォーカー(Mistwalker Corporation)の設立者である坂口博信氏は、彼の手掛ける最新作『ファンタジアン(FANTASIAN)』について壮大なビジョンを描いていました。彼のチームはモバイルデバイス上でも驚異的に美しいセットとキャラクター効果を生み出しましたが、それは 150 を超える手作りのミニチュアジオラマの写真を取り込み、革新的なフォトグラメトリ技術を編み出すところから始まりました。

私たちは坂口氏と、『ファンタジアン』のディレクター兼メインプログラマーである中村拓人氏の両人から、ミストウォーカーの舞台裏についてのお話を伺いました。このブログでは、開発チームが、アートにかける壮大なビジョンをどのようにしてモバイルデバイスに持ち込んだのかについて、彼らに語ってもらった内容を皆さんにご覧いただきます。Unity の最新のケーススタディ(英語)もご覧いただくと、ミストウォーカーの素晴らしい作品群についてより深く知ることができます。

 

ファンタジアン』は並々ならぬ情熱が注がれたプロジェクトだったようですね。そのストーリーやビジュアルスタイルのアイデアはどこから来たのでしょうか。

坂口博信氏(以下「坂口」):テラウォーズ』というプロジェクトで、キャラクターをストップモーションで動かしたく、ジオラマを使ったのがきっかけです。その時点で背景もジオラマで制作し、その実物が手元にありました。それを眺めつつ「この上を CG キャラが冒険し、RPG したら...」と想像していたのです。

ストーリーは、『ファイナルファンタジー』の頃から大切にしている命と星の循環を、別のかたちで表現したものです。また「本来、もっとも秩序正しい物体である生物から、もっとも混沌が生まれている」という現代社会の矛盾とも重なるテーマも取り入れました。さらにそれを、多重世界や「感情=エネルギー」などの要素に落とし込み、「あたたかい気持ち」でプレイヤーの心を満たすよう注力しました。

 

映画ではよく見られるものの、ゲーム制作でジオラマを使うということはそれほど一般的ではありません。『ファンタジアン』ではジオラマが効果的に使われていますが、これらのアプローチを組み合わせることで、どのようなことがわかったのでしょうか。

坂口:ゲームでは、ビジュアルは重要な要素のひとつです。ただそれに革新をもたらすのは容易ではなく、『ファイナルファンタジーⅦ』のときの CG の導入以来、自分でも新鮮なアイデアが浮かびませんでした。そんなとき、ジオラマのもつ手作り感を再確認し、ゲーム制作にはそれほど向かない可能性もあったのですが、そのビジュアル表現の新しさを選択しました。

結果、思った以上の効果が出たと感じています。やはり「新しい映像表現」へのアイデアは、その大小にかかわらず、非常に重要なものだということに、あらためて気づかされました。

 

これまでにチームが手がけたゲームと比べて、モバイルプラットフォームでの開発でどうも勝手が違うなと感じたところはどこでしょうか。

中村拓人氏(以下「中村」):今回のメンバーはコンソールとモバイルどちらも経験している人が多く、基本的にはモバイルだから苦労するということはありませんでした。ただタッチ操作とコントローラー操作を共存させるのはなかなか難しく、特にメニュー関係がかなり苦労したところでした。コントローラーだけで発生するバグなどもあり、このあたりは予想よりもコストが掛かったように思います。

 

メニュー、探索、戦闘など、モバイル向けのユーザーインタラクションとユーザーインターフェースをデザインしたプロセスについて教えてください。PC やコンソールでのアプローチとはどう違いましたか。

中村:ファンタジアン』ではモバイル向けという意識をせず、逆にコンソールゲームを作るようにインターフェースをデザインしていきました。その上でモバイルの多くの画面解像度に対応するために、デザインの微調整を繰り返して仕上げていきました。

ユーザーインタラクションという面で一番苦労したのは戦闘です。戦闘では魔法をカーブさせて複数の敵を狙うといった特殊な操作があります。敵を巻き込みやすいようにどうカーブの軌道を補正するか、狙いをつけやすいカメラ角度はどれくらいかなど、かなり試行錯誤を繰り返して、多くの敵をなぎ倒して気持ちいいプレイ感を実現しました。

 

モバイル向けに開発を進める中で、『ファンタジアン』の作品としてのビジョンを変えなければならないような側面が予期せず出てくることはあったでしょうか

中村:特にモバイルだからといって諦めたことはないです。このゲームの特徴であるジオラマを使った手法は、モバイルの処理能力でも十分動作する仕組みだったとも言えます。 

というのも、このゲームの背景には基本的に写真を使っているので、背景のモデルは深度情報と写真の投影するために使う 10,000 から 30,000 ポリゴン程度の簡易的なもので済み、ライティングも無いため、背景の描画コストはかなり抑えられています。それにより、キャラクターやポストエフェクトにコストをかけられるようになり、全体としては絵作りはより力強いものになったと思います。

Handblown glass tanks
魔導工場。タンクはガラス職人が吹いて作ったもの。
Handmade miniature bar
辺境の街エンのバー。手作り感あふれる。実際に明かりがつく仕掛けも。
Handmade wooden toy ship
ウズラ号。本物の船のように骨組みから組み立てている。
Handmade model forest
南の森。模型用の汎用樹木パーツを大量に使用している。
Handmade model of a bar
水の都ベンスのバー。一部のパーツは紙で出来ている。

ディメンジョンシステムについて。一見すると、これはランダムエンカウントのための素晴らしい革新的なシステムのように見えます。しかし、よくよく考えてみると、これは特にモバイルプレイヤーにとって役立つものだったと思います。モバイルプレイヤーは、長くて複雑な戦闘に付き合っていられないこともありますから。

中村:これは坂口さんのアイデアですね。『ファンタジアン』では、ルートが見えていない遠くの宝箱をタッチした場合でも、ナビメッシュで自動でそこまで動いてくれます。これが新しくて気持ちいいという話になったのですが、途中でエンカウントするとそれが途切れてしまいストレスになるという問題になりました。そこで出たアイデアがエンカウントを溜めておくというディメンジョンシステムになります。

このように元々はフィールド探索のために作ったシステムでしたが、これにより戦闘では大量の敵をカーブする魔法でまとめて倒す爽快感を得ることにつながったり、地味なレベル上げ作業も効率化できるようになるなどの効果も得られました。結果的に、非常に特徴的で革新的なシステムになったと思います。

 

ジオラマのデータとビジュアルエフェクト、ライティング、シャドウをどのように調和させて、芸術的なスタイルを維持したのでしょうか。

中村:調和に効果的だったのはキャラクターの質感と、空気感の演出です。

まずキャラクターですが、完全にリアルではなくフィギュアっぽい質感を目指して作りました。これを最後まで調整し、ジオラマのミニチュア感、手作り感になじむように作っていきました。ライティングもこのフィギュア感がよく出るように、アンビエントを強めにして対応しました。

そして、自然な空気感を作り出すために、ビネットをカスタマイズしたポストエフェクトを使いました。ビネットは画面の隅を暗くするエフェクトですが、『ファンタジアン』では逆に画像の隅に色を加算するようにし、フォグのような表現として使用しました。ジオラマの深度に依存するフォグを使うより、2D で色を乗せるほうが扱いやすいのです。

ファンタジアン』では写真を使っているため、深度情報は完璧ではありません。そのため、フォグや被写界深度(DOF)など、深度を使ったポストエフェクトを使ってもあまり上手くいかないのです。

 

JRPG スタイルのゲームを作ろうとしている Unity 開発者に向けて、何かヒントはありますか。

中村:JRPG は構造は単純ですが、ボリュームが大きくなりがちです。アセットも大量に必要になるため、どう効率的に管理するかが一番重要になると思います。

ファンタジアン』では、ネーミングやフォルダー構造などをルール化して、それに対しインポートスクリプトを使ってある程度自動化を行うことでアセットの管理を改善しました。

また、デバッグも重要になります。構造がシンプルな分、クラッシュバグは発生しにくいですが、フラグ設定ミスなどでストーリーが進行しないといったバグが発生しやすいです。それらを検出したり再現できるデバッグツールをあらかじめ用意しておくと良いと思います。

 

最後に、ファンや他の開発者に向けた『ファンタジアン』の小ネタや秘密がありましたら教えていただきたいです。

中村:坂口さんはかなり柔軟に個々のアイデアを取り入れてくれます。なので実は、メンバーからの意見でストーリーやキャラクター性が変わったところも少なくありません。たとえば、最初はバウリカという女性キャラクターはいなかったのですが、大人でセクシーな女性キャラクターを作りたいというアーティストの要望で新たに追加されたりしました。他にも、最後にバトルが盛り上がるからという理由で、あるキャラクターを勝手に三つ子にしたり、タンを猫好きにしてみたりということも OK してくれました。ケロロンについては坂口さんはちょっと頑固でした。ケロロンのデザインは坂口さん自身がしており、3D モデルの見た目や振る舞いにも非常にこだわっていました。また、ケロロンはその見た目に反して非常に哲学的なセリフを言うようにしてほしいという強い要望ももらいました。これにはアーティストもゲームデザイナーもかなり苦労していましたが、その甲斐あって最終的には素晴らしいキャラクターに仕上がったと思います。

坂口さんの制作スタイルは、とにかくプレイして要望を出し調整していくというものです。言い換えると、一度実装してからプレイしてもらう必要があるということです。このスタイルで開発すると、ユーザー体験の細かい要望がもらえて、ゲームのクオリティが上がります。

一方で、作ったゲームの面白さが足りないという場合は、大きく設計から見直して修正する必要が出てくることもあります。しかし、私たちはスピード重視で制作することを選びました。実装が早ければ早いほど、そのプロジェクトで何を重視すべきかが見えてきますし、クオリティも上がります。 

と同時に、あまり柔軟に作りすぎないように気をつけています。柔軟性を重視して作ると、それを上回る無茶な変更や要望には、対応しきれなくなる場合が往々にしてあるからです。最後に、似たような体験が得られるより簡単な方法を常に模索するということも付け加えておきたいです。

 

お二人とも、貴重なお時間を割いてゲームの舞台裏についてお話しいただきありがとうございました。お話しできてとても楽しかったです。

坂口・中村:どうもありがとうございました。

2022年5月16日 カテゴリ: ゲーム | 12 分 で読めます
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